保育士の初任給|平均額、手取り額、他職種との比較
保育士の初任給は、実際にはどれくらいなのでしょうか?「保育士の給料は低い」というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、初任給は、経験やスキル、勤務先などによって異なります。この章では、保育士の初任給の平均額、手取り額、そして他の職種との比較を行います。
保育士の初任給の平均額
厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、保育士の平均初任給(短大卒)は、約18万9,300円となっています。これは、あくまでも平均額であり、地域や施設の種類、経験などによって異なります。一般的に、公立保育園よりも私立保育園の方が、初任給は低い傾向があります。また、都市部の方が地方よりも初任給が高い傾向があります。
短大卒と大卒での違い
保育士の初任給は、短大卒と大卒で差がある場合があります。
一般的に、大卒の方が短大卒よりも、初任給が高く設定されていることが多いです。
これは、大学での4年間で、より専門的な知識やスキルを習得していると評価されるためです。
しかし、近年では、保育士不足の解消や、保育士の処遇改善のために、短大卒と大卒の初任給の差をなくす動きも見られます。
厚生労働省の同調査では、保育士の平均初任給(大卒)は、約19万7,200円となっています。
これらの金額は、基本給に各種手当(通勤手当、住宅手当など)を含んだ金額です。ただし、賞与(ボーナス)は含まれていません。
保育士の初任給の手取り額
保育士の初任給の手取り額は、上記の平均額から、税金や社会保険料などが差し引かれた金額になります。具体的には、所得税、住民税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などが差し引かれます。これらの金額は、個人の状況(扶養家族の有無、居住地など)によって異なりますが、一般的に、初任給の8割程度が手取り額になると言われています。例えば、初任給が18万円の場合、手取り額は約14万円~15万円程度になります。
手取り額を増やすためには、
- 控除対象となる扶養家族を増やす
- iDeCo(個人型確定拠出年金)などを利用して、課税対象となる所得を減らす
などの方法がありますが、1年目の保育士には難しい場合が多いでしょう。
他の職種との比較
保育士の初任給を、他の職種と比較してみましょう。厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、新規学卒者の平均賃金は、短大卒で約19万円、大卒で約22万8,500円となっています。保育士の初任給(短大卒:約18万9,300円、大卒:約19万7,200円)は、短大卒では同程度、大卒では他の職種に比べて低い水準にあると言えます。
保育士の初任給は、他の職種に比べて低い傾向がありますが、近年では、保育士不足の解消や、待機児童問題の解決に向けた取り組みなどにより、保育士の処遇改善が進められています。今後の動向に注目しましょう。
保育士の初任給は低い?低いと言われる理由と背景
保育士の初任給は、他の職種と比較して低いと言われることがあります。実際に、厚生労働省の調査でも、保育士の初任給は、短大卒では他の職種の平均と同程度ですが、大卒では他の職種よりも低い水準にあります。では、なぜ保育士の初任給は低いと言われるのでしょうか?この章では、保育士の初任給が低いと言われる理由と、その背景について解説します。
理由1:公定価格による制限
保育士の給料が低いと言われる主な理由の一つに、公定価格による制限があります。公定価格とは、国が定める保育サービスの価格のことです。保育園の運営費は、主にこの公定価格に基づいて国や自治体から支給される補助金によって賄われています。公定価格には、保育士の人件費も含まれていますが、この人件費が低く設定されているため、保育士の給料も低く抑えられてしまうのです。
公定価格は、保育士の配置基準や、子どもの年齢などによって細かく定められています。しかし、この公定価格が、保育現場の実情に合っていないという指摘もあります。例えば、保育士の配置基準は、子どもの人数に対して最低限の人数しか配置できないように設定されているため、保育士一人当たりの負担が大きくなりがちです。また、公定価格には、保育士の経験年数やスキルなどが十分に反映されていないため、ベテラン保育士の給料が上がりにくいという問題もあります。
公定価格は、保育サービスの質を維持するために必要な制度ですが、保育士の給料を低く抑える要因にもなっているのです。
理由2:保育士の専門性に対する評価の低さ
保育士の仕事は、子どもの命を預かり、成長をサポートするという、非常に責任が重く、専門性の高い仕事です。保育士は、子どもの発達に関する専門的な知識や、保育技術、コミュニケーション能力など、さまざまなスキルを必要とします。しかし、社会的には「子どもと遊んでいるだけ」「誰でもできる仕事」といった誤解があり、保育士の専門性が正しく評価されていない現状があります。そのため、保育士の給料は、他の専門職に比べて低く抑えられてしまう傾向があります。
保育士の専門性を社会に広く認知してもらうためには、保育士自身が積極的に情報発信をしたり、保育の質の向上に努めたりすることが大切です。
また、保育士の養成課程における教育内容の見直しや、保育士資格の取得要件の厳格化なども検討されるべきでしょう。
理由3:保育業界の構造的な問題
保育業界には、人材不足や経営の課題など、構造的な問題があります。保育士の給料が低いことも、これらの問題の一因となっています。保育士不足が深刻化している地域では、保育士を確保するために、給料を上げざるを得ない状況になっていますが、それでもなお、十分な給料を支払えない保育園も少なくありません。また、小規模な保育園や、経営状態が厳しい保育園では、保育士の給料を上げることが難しいという現状もあります。
保育業界の構造的な問題を解決するためには、国や自治体による支援が必要です。
例えば、
- 保育士の配置基準の見直し
- 保育士の給料を上げるための補助金制度の拡充
- 保育園の経営を支援するためのコンサルティング事業
などが考えられます。
保育士の初任給が低いと言われる背景には、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。これらの問題を解決するためには、国や自治体、保育業界全体で、保育士の処遇改善に向けた取り組みをさらに進めていく必要があります。
保育士1年目から給料を上げる方法|実践的なアドバイス
保育士の初任給は、他の職種に比べて低い傾向がありますが、1年目からでも給料を上げる方法はいくつかあります。この章では、保育士1年目から給料を上げるための実践的なアドバイスを紹介します。
方法1:処遇改善等加算の対象となる保育園を選ぶ
保育士の給料を上げるための国の取り組みとして、「処遇改善等加算」という制度があります。処遇改善等加算は、保育士の経験年数やスキルに応じて、給料に加算される制度です。この制度は、全ての保育園で実施されているわけではありません。そのため、就職・転職活動をする際には、処遇改善等加算の対象となる保育園を選ぶことが、給料アップへの近道となります。求人情報や保育園のウェブサイトなどで、処遇改善等加算の実施状況を確認しましょう。また、面接の際に、直接質問してみるのも良いでしょう。
処遇改善等加算には、
- 処遇改善等加算Ⅰ: 保育士の平均勤続年数などに応じて加算
- 処遇改善等加算Ⅱ: キャリアアップ研修を修了した保育士に対して加算(月額5千円~4万円)
などがあります。
これらの制度について、詳しく調べておくことをおすすめします。
方法2:スキルアップを目指す
保育士としてのスキルアップも、給料アップにつながる可能性があります。保育士に関連する資格を取得したり、研修に参加したりすることで、専門性を高め、給料アップにつなげることができます。例えば、
- 幼稚園教諭免許: 幼稚園教諭免許を取得すると、認定こども園で働くことができるようになり、給料アップの可能性が広がります。
- 認定ベビーシッター: 家庭的保育に関する専門知識や技術を習得したことを証明する資格です。
- リトミック指導者資格: 音楽を使った幼児教育の専門家であることを証明する資格です。
- チャイルドマインダー: 少人数保育のスペシャリストであることを証明する資格です。
- 絵本専門士: 絵本に関する専門知識を持つ専門家であることを証明する資格です。
などの資格があります。これらの資格を取得することで、保育士としての専門性を高め、キャリアアップにつなげることができます。
役立つ資格の例
上記以外にも、
- 英語関連の資格(英検、TOEICなど)
- 食育関連の資格
- 障害児保育に関する資格
なども、保育士の仕事に役立ち、給料アップにつながる可能性があります。
おすすめの研修
保育士のスキルアップを目的とした研修は、さまざまな機関で実施されています。
- 都道府県や市区町村
- 保育士会
- 民間企業
などが研修を実施しています。
研修の内容は、乳児保育、障害児保育、食育、保護者支援、最新の保育技術など、多岐にわたります。
自分の興味や関心のある分野、伸ばしたいスキルに合わせて、研修を選びましょう。
研修に参加することで、保育士としての専門性を高めるだけでなく、他の保育士との交流を深めることもできます。
積極的に研修に参加し、スキルアップを目指しましょう。
これらの資格取得や研修への参加は、すぐに給料アップに繋がらない場合もありますが、将来的なキャリアアップや、より良い条件の職場への転職に有利になる可能性があります。
方法3:給料の高い地域や施設に転職する
保育士の給料は、地域や施設の種類によって異なります。一般的に、都市部の方が地方よりも給料が高く、私立保育園よりも公立保育園の方が給料が高い傾向があります。また、認定こども園や企業内保育施設なども、比較的給料が高い傾向があります。もし、現在の職場の給料に不満がある場合は、給料の高い地域や施設への転職を検討するのも一つの方法です。ただし、転職する際には、給料だけでなく、勤務時間や休日、福利厚生、職場の雰囲気なども考慮し、自分に合った職場を選ぶことが大切です。
転職の際の注意点
給料が高い施設は、人気が高く、競争率も高い傾向があります。
また、給料が高い分、仕事内容がハードだったり、責任が重かったりする場合もあります。
転職を成功させるためには、
- 自分のスキルや経験を客観的に評価する
- 希望する条件を明確にする
- 複数の求人情報を比較検討する
- 職場見学に行く
など、事前の情報収集と準備が重要です。
安易な転職は、後悔につながる可能性があります。
慎重に検討し、自分に合った職場を見つけましょう。
保育士1年目から給料を上げる方法は、いくつかあります。自分に合った方法を見つけ、計画的に取り組んでいきましょう。そして、保育士としてのスキルアップを常に心がけ、より良い保育を提供できるよう努力することが、結果的に給料アップにつながる最も確実な方法です。
保育士の給料に関するよくある質問
保育士の給料に関して、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。保育士を目指している方、現役の保育士の方、どちらにも役立つ情報です。
Q: 公立保育園と私立保育園では、どちらが給料が高い?
A: 一般的に、公立保育園の方が私立保育園よりも給料が高い傾向があります。
公立保育園の保育士は地方公務員となるため、給料は地方公務員の給与規定に基づいて支給されます。
そのため、給料が安定しており、福利厚生も充実している傾向があります。
また、勤続年数に応じて昇給があり、賞与(ボーナス)も支給されます。
一方、私立保育園の給料は、園によって大きく異なります。
経営母体の規模や経営状況、保育方針などによって、給料に差が生じます。
一般的に、大規模な社会福祉法人や株式会社が運営する保育園は、給料が高い傾向があります。
しかし、小規模な保育園や、経営状態が厳しい保育園では、給料が低い場合もあります。
私立保育園の場合は、給料だけでなく、
- 保育方針
- 職場の雰囲気
- 福利厚生
- 研修制度
なども考慮して、自分に合った職場を選ぶことが大切です。
Q: ボーナスはどれくらい支給される?
A: 保育士のボーナスは、施設の種類や経営状況によって異なりますが、年間で2ヶ月分~4ヶ月分程度が一般的です。
公立保育園の場合は、地方公務員の給与規定に基づいてボーナスが支給されるため、比較的安定しています。
私立保育園の場合は、園の経営状況によってボーナスの支給額が大きく変動することがあります。
中には、ボーナスが支給されない保育園もあります。
ボーナスの支給額は、基本給を基準に計算されることが一般的です。
そのため、基本給が高い保育園ほど、ボーナスの支給額も高くなります。
また、経験年数や役職、勤務成績などによって、ボーナスの支給額が加算される場合もあります。
ボーナスは、保育士にとって貴重な収入源です。
就職先を選ぶ際には、ボーナスの支給状況も確認するようにしましょう。
求人票に「賞与あり」と記載されていても、具体的な金額や支給月数が明記されていない場合は、直接問い合わせて確認することをおすすめします。
Q: 家賃補助はある?
A: 保育士向けの家賃補助制度は、自治体や保育園によって異なります。
保育士不足が深刻な地域では、保育士を確保するために、自治体が独自の家賃補助制度を設けている場合があります。
例えば、
- 東京都: 「保育士宿舎借り上げ支援事業」
- 横浜市: 「保育士宿舎借り上げ支援事業」
などがあります。
これらの制度を利用すると、家賃の一部を補助してもらうことができます。
補助の対象となる条件や、補助額は、自治体によって異なりますので、詳しくはお住まいの自治体の窓口にお問い合わせください。
また、保育園によっては、独自の家賃補助制度を設けている場合があります。
求人情報を確認する際に、「住宅手当」や「家賃補助」などの項目があるかチェックしてみましょう。
家賃補助制度を利用することで、保育士の経済的な負担を軽減することができます。
保育士の給料に関する疑問や不安は、これらのQ&Aで少しは解消されたでしょうか?保育士の給料は、さまざまな要素によって決まります。就職先を選ぶ際には、給料だけでなく、勤務時間や休日、福利厚生、職場の雰囲気なども考慮して、総合的に判断することが大切です。
保育士の給料は低い?将来性はある?
保育士の給料は、他の職種に比べて低いと言われることが多く、将来性に不安を感じる方もいるかもしれません。しかし、近年では、保育士不足の解消や、待機児童問題の解決に向けた取り組みなどにより、保育士の処遇改善が進められています。この章では、保育士の給料の現状と、今後の展望について解説します。
保育士の給料の現状
保育士の給料は、これまで低い水準にありました。
厚生労働省の調査によると、保育士の平均年収は、全産業の平均年収を下回っています。
また、保育士の仕事は、子どもの命を預かる責任の重い仕事であり、専門的な知識やスキルも必要です。
しかし、その仕事内容に見合った給料が支払われていないという声も多く聞かれます。
保育士の給料が低い理由としては、
- 公定価格による制限
- 保育士の専門性に対する評価の低さ
- 保育業界の構造的な問題
などが挙げられます。
しかし、近年では、保育士不足の深刻化や、待機児童問題の解消に向けた取り組みなどにより、保育士の処遇改善が進められています。
今後の展望:処遇改善への期待と課題
国は、保育士の処遇改善のために、さまざまな取り組みを行っています。
その一つが、「処遇改善等加算」制度です。
処遇改善等加算は、保育士の経験年数やスキルに応じて、給料に加算される制度です。
この制度により、保育士の給料は少しずつ改善されてきています。
また、自治体によっては、独自の補助金制度を設けて、保育士の給料を上乗せしているところもあります。
さらに、保育士のキャリアアップを支援するための研修制度も充実してきています。
これらの研修を受講することで、保育士としての専門性を高め、給料アップにつなげることができます。
政府は、2022年度から保育士の給与を月額9000円程度引き上げる方針を示しました。
これは、「新しい資本主義」の実現に向けた分配戦略の一環として、保育士の収入増を図るものです。
今後も、保育士の処遇改善に向けた取り組みが進められることが期待されます。
しかし、これらの取り組みによって、保育士の給料がすぐに大幅にアップするわけではありません。
保育士の給料が、他の職種と同等レベルになるまでには、まだ時間がかかるでしょう。
保育士の給料を上げるためには、国や自治体による継続的な支援が必要です。
また、保育士の専門性を社会に広く認知してもらうための取り組みも重要です。
保育士の給料は、現状では低いと言わざるを得ませんが、改善に向けた動きも見られます。
保育士を目指す方は、給料だけでなく、仕事のやりがいや、子どもの成長に関われる喜びなど、さまざまな側面から保育士という仕事の価値を考えてみましょう。
そして、保育士として働く方は、今後の処遇改善に期待しつつ、自身のスキルアップやキャリアアップにも積極的に取り組みましょう。
また、保育士の労働環境や処遇改善について、社会全体で関心を持ち、議論していくことが重要です。