日本の保育士配置基準|年齢別の人数と計算方法
保育園では、子どもの年齢に応じて、保育士の配置基準が定められています。これは、子どもたちの安全を確保し、質の高い保育を提供するために、国が定めた最低限の基準です。この章では、日本の保育士配置基準について、年齢別の人数と具体的な計算方法を解説します。
年齢別の保育士配置基準
保育士配置基準は、子どもの年齢によって異なります。年齢が低いほど、保育士1人あたりが担当する子どもの人数は少なく設定されています。これは、年齢が低い子どもほど、手厚い保育が必要となるためです。国の最低基準は、以下の表の通りです。
| 子どもの年齢 | 保育士1人あたりの子どもの数(国の最低基準) |
|---|---|
| 0歳児 | 3人 |
| 1・2歳児 | 6人 |
| 3歳児 | 20人 |
| 4歳以上児 | 30人 |
例えば、0歳児が3人いる保育園では、保育士が1人以上必要になります。1・2歳児が6人いる場合は、保育士が1人以上必要です。3歳児の場合は20人、4歳以上児の場合は30人まで、保育士1人で担当することができます。
ただし、これはあくまでも国の最低基準です。
自治体によっては、この基準よりも手厚い配置基準(上乗せ基準)を設けている場合があります。
例えば、0歳児の配置基準を「保育士1人あたり子ども2人」としている自治体もあります。
また、保育園によっては、国の基準や自治体の上乗せ基準よりもさらに手厚い配置をしているところもあります。
これらの配置基準は、子どもの安全と健やかな成長を保障するために、非常に重要なものです。
保育士配置基準の計算方法
保育士配置基準の計算方法は、子どもの年齢と人数によって異なります。具体例を挙げて、計算方法をわかりやすく解説します。
例1:0歳児が5人、1歳児が8人いる保育園の場合
- 0歳児:5人 ÷ 3人 = 1.66… → 切り上げて2人
- 1歳児:8人 ÷ 6人 = 1.33… → 切り上げて2人
必要な保育士の数は、2人 + 2人 = 4人となります。
例2:3歳児が15人、4歳児が25人、5歳児が20人いる保育園の場合
- 3歳児:15人 ÷ 20人 = 0.75人 → 切り上げて1人
- 4歳児と5歳児:(25人 + 20人) ÷ 30人 = 1.5人 → 切り上げて2人
必要な保育士の数は、1人 + 2人 = 3人となります。
このように、保育士の配置基準は、子どもの年齢ごとに必要な保育士の数を計算し、その合計人数以上の保育士を配置する必要があります。
注意点:常時2名以上の保育士が必要
保育士の配置基準には、「常時2名以上の保育士を配置すること」という決まりがあります。
これは、子どもの安全を確保するため、そして、保育士が一人で抱え込まないようにするためです。
例えば、0歳児が1人しかいない保育園でも、保育士は2人以上必要です。
また、計算上は保育士が1人で足りる場合でも、休憩時間や急な体調不良などに備え、常に2人以上の保育士を配置する必要があります。
保育士配置基準は、あくまでも最低限の基準です。より質の高い保育を提供するためには、基準以上の保育士を配置することが望ましいとされています。保育園を選ぶ際には、保育士の配置基準だけでなく、実際の保育士の人数や、保育の様子なども確認するようにしましょう。
日本の保育士配置基準は本当に「おかしい」?問題点を指摘
日本の保育士配置基準は、諸外国と比較して「おかしい」という声も聞かれます。特に、保育士1人あたりが担当する子どもの人数が多いことや、保育士の負担が大きいことが問題視されています。この章では、日本の保育士配置基準の問題点について解説します。
問題点1:子どもの人数が多すぎる
日本の保育士配置基準では、保育士1人あたりが担当する子どもの人数が、年齢によって異なります。0歳児は3人に1人、1・2歳児は6人に1人、3歳児は20人に1人、4歳以上児は30人に1人となっています。しかし、この人数は、諸外国と比較して多いと言わざるを得ません。例えば、イギリスでは、0歳児は3人に1人、1歳児は4人に1人、2歳児は4人に1人、3歳児は8人に1人(または13人に1人)、4歳以上児は13人に1人(または20人に1人)となっています(※)。
保育士1人あたりが担当する子どもの人数が多いと、
- 子ども一人ひとりに十分な attention (注意)を払うことができない
- 子どもの安全確保が難しくなる
- 保育の質が低下する
などの問題が生じる可能性があります。
(※)出典:
- Statutory framework for the early years foundation stage - GOV.UK: https://www.gov.uk/government/publications/early-years-foundation-stage-framework--2
各国の制度や研究によって基準が異なること、また、イギリスは年齢や資格の有無で異なる基準があることに留意してください。
問題点2:保育士の負担が大きい
保育士1人あたりが担当する子どもの人数が多いことは、保育士の負担が大きいことにもつながります。保育士は、子どもの保育だけでなく、書類作成や行事の準備、保護者対応など、さまざまな業務をこなさなければなりません。そのため、労働時間が長くなりがちで、残業や持ち帰り仕事が多いという現状があります。また、保育士不足のため、有給休暇が取りにくい、希望する日に休みが取れないという問題もあります。保育士の負担が大きいと、
- 心身の健康を損なう
- モチベーションが低下する
- 離職につながる
などの問題が生じる可能性があります。
保育士不足が深刻化している現代において、保育士の負担軽減は喫緊の課題です。
問題点3:保育の質が低下する可能性
保育士の負担が大きいことは、保育の質が低下する可能性にもつながります。保育士が心身ともに疲弊している状態では、子どもたちに十分な愛情を注ぎ、質の高い保育を提供することは難しいでしょう。また、保育士1人あたりが担当する子どもの人数が多いと、子ども一人ひとりの個性や発達段階に合わせた、きめ細やかな保育が難しくなります。保育の質が低下すると、
- 子どもの発達に悪影響を及ぼす
- 保護者からの信頼を失う
- 保育園の評判が下がる
などの問題が生じる可能性があります。
保育の質を向上させるためには、保育士の配置基準を見直し、保育士の負担を軽減することが不可欠です。
日本の保育士配置基準は、諸外国と比較して、保育士1人あたりが担当する子どもの人数が多く、保育士の負担が大きいことが問題視されています。これらの問題点を解決するためには、保育士配置基準の見直しや、保育士の処遇改善など、国や自治体による早急な対策が必要です。
諸外国の保育士配置基準|日本との比較
諸外国の保育士配置基準は、どのようになっているのでしょうか?この章では、いくつかの国の保育士配置基準を紹介し、日本との比較を行います。日本と比較することで、日本の保育士配置基準の問題点がより明確になるでしょう。
アメリカの保育士配置基準
アメリカの保育士配置基準は、州によって異なります。連邦政府による統一基準はなく、各州が独自に基準を定めています。例えば、カリフォルニア州では、0歳児は4人に1人、1歳児は4人に1人、2歳児は12人に1人、3歳児は12人に1人、4歳以上児は15人に1人となっています。ニューヨーク州では、0歳児は4人に1人、1歳児は5人に1人、2歳児は6人に1人、3歳児は7人に1人、4歳児は10人に1人、5歳児は12人に1人となっています。
アメリカの多くの州では、日本よりも保育士1人あたりが担当する子どもの人数が少なく設定されています。
また、年齢が上がるにつれて、保育士1人あたりが担当する子どもの人数が増えていく点は、日本と共通しています。
アメリカの各州の基準は頻繁に変わる可能性があるため、最新の情報は各州のウェブサイトで確認してください。
イギリスの保育士配置基準
イギリスの保育士配置基準は、年齢や保育士の資格の有無によって細かく定められています。例えば、0歳児は3人に1人、1歳児は4人に1人、2歳児は4人に1人、3歳児は8人に1人(保育士資格を持つ者がいる場合)または13人に1人(幼稚園教諭資格を持つ者がいる場合)、4歳以上児は13人に1人(幼稚園教諭資格を持つ者がいる場合)または20人に1人(資格を持たない者がいる場合)となっています。
イギリスでは、保育士の資格制度が充実しており、資格の有無によって配置基準が異なるのが特徴です。
日本と比較すると、特に3歳児以降の配置基準に大きな差があります。
イギリスの基準は頻繁に変わる可能性があるため、最新の情報は政府のウェブサイトで確認してください。
フランスの保育士配置基準
フランスの保育士配置基準は、施設の種類や年齢によって異なります。集団保育施設(クレッシュ)の場合、0~1歳未満の子どもは5人に1人、歩ける子ども(おおむね1歳以上)は8人に1人となっています(※)。また、保育ママ(家庭的保育)の場合は、保育者1人あたり最大4人までとなっています。
フランスでは、保育士の資格取得が義務付けられており、保育の質が担保されています。
日本と比較すると、特に乳幼児期の配置基準が手厚くなっています。
フランスの基準は頻繁に変わる可能性があるため、最新の情報は政府のウェブサイトや関連機関の資料で確認してください。
ドイツの保育士配置基準
ドイツの保育士配置基準は、州によって異なりますが、一般的に、3歳未満の子どもは保育士1人あたり3~5人、3歳以上の子どもは保育士1人あたり8~12人程度が目安とされています(※)。
ドイツでは、保育士は専門職として位置づけられており、養成校での教育が重視されています。
日本と比較すると、特に3歳未満児の配置基準が手厚くなっています。
(※)出典:
- 各州の保育関連法規、および関連する研究論文等を参照。
ドイツの基準は頻繁に変わる可能性があるため、最新の情報は各州のウェブサイトで確認してください。
スウェーデンの保育士配置基準
スウェーデンの保育士配置基準は、法律で明確に定められているわけではありませんが、1~3歳の子どもは保育士1人あたり5人程度、4~5歳の子どもは保育士1人あたり6人程度が一般的です(※)。
スウェーデンでは、保育の質を重視しており、保育士の養成にも力を入れています。
日本と比較すると、全体的に保育士1人あたりが担当する子どもの人数が少ないことがわかります。
(※)出典:
- Skolverket (スウェーデン国立教育庁)の資料等を参照。
スウェーデンの基準は頻繁に変わる可能性があるため、最新の情報は政府のウェブサイトで確認してください。
比較表
各国の保育士配置基準と、日本の基準を表にまとめ、比較してみましょう。
| 国 | 0歳児 | 1歳児 | 2歳児 | 3歳児 | 4歳以上児 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 3:1 | 6:1 | 6:1 | 20:1 | 30:1 |
| アメリカ(例:カリフォルニア州) | 4:1 | 4:1 | 12:1 | 12:1 | 15:1 |
| イギリス | 3:1 | 4:1 | 4:1 | 8:1 または 13:1 | 13:1 または 20:1 |
| フランス | 5:1(1歳未満) | 8:1(歩ける子) | 8:1(歩ける子) | 8:1(歩ける子) | 8:1(歩ける子) |
| ドイツ(目安) | 3~5:1 | 3~5:1 | 3~5:1 | 8~12:1 | 8~12:1 |
| スウェーデン(目安) | 5:1程度 | 5:1程度 | 5:1程度 | 6:1程度 | 6:1程度 |
この表からもわかるように、日本の保育士配置基準は、諸外国と比較して、保育士1人あたりが担当する子どもの人数が多いことがわかります。
特に、3歳児以降の配置基準は、他の国と比べて大きな差があります。
これらの比較から、日本の保育士配置基準は、国際的に見ても、保育士の負担が大きいことがわかります。保育士の負担を軽減し、保育の質を向上させるためには、保育士配置基準の見直しが必要であると言えるでしょう。
保育士配置基準の改善に向けて|今後の動きと課題
日本の保育士配置基準は、諸外国と比較して、保育士1人あたりが担当する子どもの人数が多く、保育士の負担が大きいことが課題となっています。保育士不足や保育の質の低下を招く要因ともなっており、改善を求める声が上がっています。この章では、保育士配置基準の改善に向けた今後の動きと課題について解説します。
国や自治体の取り組み
国は、保育士配置基準の改善に向けて、さまざまな取り組みを行っています。
例えば、
- 処遇改善等加算:
保育士の給与を上げるための補助金制度です。
保育士の経験年数やスキルに応じて、給料に加算されます。 - 保育士・保育所支援センター:
保育士の就業相談や、保育所への就職支援などを行っています。
また、保育士のキャリアアップを支援するための研修なども実施しています。 - 保育士試験の年2回実施:
保育士試験を年2回実施することで、保育士資格取得の機会を増やし、保育士不足の解消を目指しています。
また、自治体によっては、
- 国の基準よりも手厚い保育士配置基準を設定
- 保育士の給与を上乗せする補助金制度を設ける
- 保育士宿舎借り上げ支援事業を行う
- 保育士が賃貸住宅に住む場合、家賃の一部を補助する制度
- 特に都市部で有効 (家賃が高いため)
など、独自の取り組みを行っているところもあります。
これらの取り組みにより、保育士の処遇は少しずつ改善されてきていますが、まだ十分とは言えません。さらなる改善のためには、国や自治体の継続的な支援が必要です。
保育現場からの声
保育現場からは、保育士配置基準の改善を求める声が強く上がっています。
保育士1人あたりが担当する子どもの人数が多すぎると、
- 子ども一人ひとりに十分な attention (注意)を払うことができない
- 子どもの安全確保が難しくなる
- 保育の質が低下する
- 保育士の負担が大きくなり、心身の健康を損なう
- 離職につながる
などの問題が生じる可能性があります。
保育士たちは、
- 子どもたち一人ひとりとじっくり向き合いたい
- 子どもたちの成長をより丁寧にサポートしたい
- より質の高い保育を提供したい
と願っています。
保育士の配置基準の改善は、保育士の負担軽減だけでなく、保育の質の向上、ひいては子どもたちの健やかな成長につながります。
私たちにできること
保育士配置基準の改善は、国や自治体、保育園だけの問題ではありません。
私たち一人ひとりにも、できることがあります。
例えば、
- 保育士不足の問題に関心を持つ
- 保育士への感謝の気持ちを伝える
- 保育園の運営に協力する
- 地域の保育士を応援するイベントに参加する
- 保育士不足の問題について、SNSなどで発信する
- 署名活動に参加する
- 政治家や自治体に意見を届ける
など、さまざまな方法で、保育士をサポートすることができます。
私たち一人ひとりの小さな行動が、保育士不足の解消、ひいては保育士配置基準の改善につながる可能性があります。
保育士配置基準の改善は、子どもたちの健やかな成長と、保育士の働きがいを守るために、必要不可欠な取り組みです。国や自治体、保育現場、そして私たち一人ひとりが、それぞれの立場でできることを行い、より良い保育環境を築いていくことが大切です。